団扇絵はいつ頃から描かれたのか、江戸庶民文化の団扇絵
葛飾北斎の団扇絵   北斎の郡鶏図(重要文化財)鷹、勝景奇覧シリーズ、人気の団扇絵師
歌川豊国・国貞の団扇絵 粋な江戸女(四季シリーズ)、芸者衆近衛八景
歌川国芳の団扇絵 猫の団扇絵(猫のすずみ・猫の六毛氈)、粋な芸者衆、江戸名家
歌川広重の団扇絵 江戸庶民に一番の人気は広重の風景団扇絵だった
歌川広重の団扇絵 背景の風景は広重、人物は豊国、二人の競作団扇絵
歌川房種の団扇絵 江戸名所と粋な芸者の団扇絵
「団扇売」絵・奥村利信 東京国立博物館蔵 
 
団扇絵についての考察………略史
上記の絵は通称団扇絵と呼ばれ、絵の形に切り抜き、竹の骨に張り込んで団扇になる。寸法は、縦・22〜24センチ、横・30センチ以内である。まん丸で、上記の団扇絵が上部をカットされているのは、絵見本を保存する都合であろう。

団扇は使用され、捨てられるため残っていないが、切り抜かずに絵として鑑賞されたり、見本摺の絵が残った。
  日本に団扇がもたらされたのは、奈良時代で中国からである。江戸文政頃(1818)より流行した。歌麿なども絵のなかで団扇を持たせている。知られた浮世絵師のほとんどが描いている。
 
『當世好物八景』喜多川歌麿 東京国立博物館所蔵
当世好物八景子供好」絵・喜多川歌麿 詳細不明 東京国立博物館蔵 子供が団扇を持っている。拡大表示

全くの私見だが、現代のパチンコ屋や消費者金融が宣伝のためテッシュを配るように、繁華街(芝神明・浅草)で団扇を配ったのだろうか。そのため、スポンサーが買い取る枚数が多いため金になり、大手版元や名のある浮世絵師も描いたのではないだろうか。夏の夕方、団扇で仰ぎながら吉原へ歩く客もいたであろう。

団扇は団扇問屋から売られた
  享保の改革により団扇問屋が作られ、堀江町に軒を連ねた、最初は白い団扇が売られたらしい。夏には団扇を売り、冬はサツマイモやミカンを商ったと言われるが、団扇に役者絵を描くようになり一年中の商いをねらったのではないか、あらゆるジャンルの絵が描かれ、団扇問屋だけでなく、地本問屋も販売に参入したらしい。上記右の「猫の六毛撰」団扇絵は地本問屋・西村屋与八の扱いである。

右は江戸時代中頃の「団扇売り」である。町中を行商して歩き、一枚を16文ほどで売ったようである。天保時代以後、浮世絵の団扇(上記団扇絵)になると浮世絵師の手間が入り、一本が36文から48文になった。観賞用に買う人には、浮世絵ショップや団扇問屋で購入したのではないかと思う。(『江戸行商百姿』花咲一男著 美樹書房 2003年)




団扇「天王御祭礼団扇」絵・歌川芳藤 神田明神付祇園社の祭り

 

  ●江戸馬喰町にあった、永寿堂扇子見世の風景


 左に注文を終えて帰る女性達と、足を下ろしている共の小僧がいる。足元には子犬が五匹おり、女性のペットか見世の犬か判らない。真ん中の絵では、振り袖の娘と若衆が扇子を選んでいる。娘は手にお茶を持っているので見世の者かも知れない。右の絵では、扇子を作る工程を示している、座っている女性は、扇子に貼る役者絵を選んでいる。好きな絵を貼ることが出来るオーダーメイドである。豊国は犬好きらしく、画中に子犬が描かれていることがある。

 《上方、京都深草の里、団扇屋店先風景》

京都ー深草の里ー団扇店
  団扇店の店先風景である。江戸からの侍か、団扇を求める交渉をしている。往来には旅人や行商人、ひとり駕籠かき、人形回しが人形をさし上げている。文中の詞は『深草の少将団安ければ京の小町に貰いはやらかす』、俳諧師向井去来である。「都名所図会」5巻 秋里籠島、竹原繁信画、天明6年(1786)(国立国会図書館デジタル化資料)

「英寿堂扇子見世」絵・歌川豊国 版元・永寿堂 西村屋与八 年代不明


「あつまけんしみたて五節句」絵・一寿斉国貞(歌川豊国三代)、安政2年(1855)版元・山庄 山田屋正次郎 彫師・彫竹 横川竹二郎(名人馬鹿竹)国立国会図書館デジタル化資料 拡大表示
「世渡風俗図会」清水清風 明治 国立国会図書館デジタル化資料 江戸の団扇行商人。

「五節句」とは幕府により制定された年五回の祝日である。
 
  1月7日の「七草粥」、3月3日の「ひな祭り」、5月5日の「菖蒲の節句」、今は子供の日です。男の子の立身出世を願う日です。7月7日は「七夕の夕べ」、今では女の子の節句である。9月9日は、重陽の日ですが一般的ではありません。この五節句は、明治6年(1873)に廃止されましたが、今では復活しています。
 
浮世絵は、晴着を買いに来た裕福な商家の娘か、団扇を回すハンドルが付いた「手回し団扇」がある。元禄の頃より団扇が一般的になり、網代を貼った網代団扇、絹を貼った絹団扇など、素材も色々あった。一般的な柿しぶを塗った茶色の丈夫な団扇は、台所で火起こしに使われた。この手回し団扇は、大店の店先で使われ、一般的ではなかった。

『あつまけんしみたて五節句』梅蝶楼国貞,一寿斎国貞(四代豊国) 国立国会
図書館デジタルコレクション所蔵 出版 山田屋 安政二年(1855)
扇風機の絵は三枚揃いであった。裕福な商人の節句風景である。金魚は江戸ペットブームの一つである。大変高価であり絵のように金魚鉢で多くを飼うのは、大金持ちしか出来なかった。

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